HILLOCK未来日記⑤ テーマ学習 前編

HILLOCK未来日記⑤ テーマ学習 前編

2021年6月25日 オルタナティブ教育 東京 教育

イントロダクション

テーマ学習は国語や算数、理科社会の知識を学ぶ、という目的ではありません。現実にあるもの(映画や伝統工芸品、最先端技術、会社と社会、環境問題など)を学ぶ中で教科を横断しながら物事のつながりを学んでいくための機会です。理論的にはインターナショナルバカロレアの探究学習をベースにしています。
教科の他にテーマ学習を行う理由としては

①抽象的な考えと具体的な知識や事例が繋がる経験をすること
②身の回りの物事に知的な楽しさや美しさ、驚きがあることを知ること
③知識とは別の様々な能力(コミュニケーション能力、リサーチ能力、自己マネジメント能力など)を獲得するきっかけをつくること

が挙げられます。1ヶ月〜2ヶ月ほどかけて同じテーマを様々な観点から扱い、理解を高めていくのです。
長く時間をかけるテーマなので、前編、後編に分けて未来日記を書いていきます。

今回のテーマ学習は「自然の法則を応用して技術は発展していく」というテーマ。さて、どんな学習になるのでしょうか。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

未来日記

3年生のKくんはこの前の誕生日のプレゼントはドローンを買ってもらってとても夢中になっている。家で毎日、ドローンを電池がなくなるまで飛ばしている。
次のテーマ学習は科学がテーマだと聞いて、いてもたってもいられなくなっている。メカが大好きなKくんは大いに期待した。
そんな期待の中、シェルパが持ってきたものはなんと「蜂の巣」だった。

画像5

最初は驚いたKくんだったが少しがっかりしていた。「なぁんだ、虫の探究か、そんなのつまらないよ」実は虫がちょっと苦手なKくん、思わず憎まれ口を叩いてしまう。

そんなKくんを尻目にシェルパはコウラーナー達にこう続けた。

(シェルパとは通常の学校における先生。HILLOCKでは「学びの山に登るプロガイド」という意味を込めて先生ではなくシェルパと呼びます。また、学習者を「共に学ぶもの」としてコウラーナー(co-learner)と呼びます。)

「この形は何角形だい?」
コウラーナー達は蜂の巣を覗き込んだ。「六角形?」Hくんが言った。
シェルパはコウラーナーみんながじっくり観察するのを待ってから言った。
「この形はね、ハニカム構造と言うんだよ。ハニカム構造にはすごい秘密があるんだ」

シェルパはその後コウラーナー達に「切って組み立てれば四角柱になる紙と六角中になる紙」を配った。

「さあみんな、この紙を使ってたくさんの四角柱と六角中をつなぎ合わせた形を作ろう。作った後にはハニカム構造の秘密の一つがわかるはずだよ」

みんなは大はしゃぎ、虫が苦手なKくんも工作は大好きだった。
みんなで力を合わせて切ったり貼ったり。こんな2つの形が出来上がった。

ハニカム

ハニカム2

引用

ハニカム構造の方は立てても寝かせても、何冊も重い図鑑を載せても耐えることができた。しかし、四角柱の方は潰れてしまった。

ハニカム3

実験が終わった後、シェルパは続けた。
「今見た通り、ハニカム構造はとても強い形なんだ。ハニカム構造は身の回りのいろいろなところに使われている。軽い素材でも強くすることができるから飛行機の翼の中にも使われているんだよ。」

コウラーナー達はじっと身の回りのものを思い返してみた。
「サッカーのボールもゴールのあみも六角形だった!」
「お父さんの椅子のクッションに、六角形だった!」
「音楽室のスピーカーの裏側も!」

身の回りのものにはたくさんの秘密が隠れている。Kくんはそう思った。

さらにシェルパは続けた。
『こういった自然の形や生き物の体の特徴をつかった技術をバイオミメティクス って言うんだよ。今回のテーマ学習は「自然の法則を応用して技術は発展していく」というテーマだ。バイオミメティクス はハニカム構造以外にもたくさんあるんだ。』
Kくんは虫は苦手だったが、機械は大好きだ。他にどんなものがあるか、とてもワクワクしている。

「実はこの新幹線に2つ、バイオミメティクス が隠されているよ。」
シェルパは教室のモニターにこの写真を映した。

画像4

引用

全員が食い入るように画像を見つめている。窓の形、新幹線のでっぱり、つるつるした素材、、、
コウラーナー達はお互いの発見を話し合う中で答えに近づこうとしている。

そこでシェルパは言った。
「あ!もうお昼の時間だ!今日はここまで、明日はこの続きからやろう。」
「えーーー!!」
「いいところだったのに!」
「いつもすっきり終わらないで授業時間が終わっちゃう!」
「いいもん、おれ、家で探究してくる!」
コウラーナー達はいいところで授業が終わってしまって笑顔で不満を漏らしている。

テーマ学習は探究的で答えがすぐ出ない学びだ。すぐに答えの出ない、観察をして、疑問と仮説と検証を繰り返す楽しさが学びにはあることをコウラーナー達は知っている。その先に自分の興味に応じて内容を選ぶ機会や深い気づき、自分の考えやオリジナリティを表現する機会があることも。
明日もこの学びが続くことを楽しみにして、お昼ご飯の準備をし始めた。

後半へ続く。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一見難しい言葉(ハニカム構造、バイオミメティクス )のように思えることも興味を持つと何年生からだって始めることができます。

ただ、難しい言葉を扱っていてもここまではあくまでも理科的な授業であり、シェルパが教材を与えている段階です。
テーマ学習の最後は自分で選んだテーマなどを発表したり、作品を作ったり、文章やポスターにまとめたりするアウトプットを持って一区切りをつけます。

ここからどのようにしてこのテーマ学習は理科以外の要素とつながり、最終的にコウラーナーたちが自分でテーマを選び、アウトプットしていくのでしょうか。
次回もお楽しみに。
(追記:前後編のつもりが長くなったので前中後編になりました。)