HILLOCK未来日記② どうしても制度編

HILLOCK未来日記② どうしても制度編

2021年5月17日 オルタナティブ教育 東京 教育

イントロダクション

この国では「民主主義=多数決」と誤解されていることが多いように感じます。多数決は一つの方法ではありますが、便利な方法と言うこともあり、ともするとすべての方法が多数決で決められてしまいがちです。その中で、マイノリティの意見が届きにくかったり、強い人の意見や「なんとなく」の総意に引っ張られてしまったりすることも。この経験ばかりしていては「どうせ無理」と考えるようになるのも、無理は無いのかも知れません。そこで、ヒロックで取り入れたいのがこの「どうしても制度」です。

未来日記

金曜日の午前は全部、自由に使える時間。晴れた日はたいてい、みんなで徒歩30秒の砧公園に遊びに行く。Tくんも大好きな時間だ。

今日はみんなで水風船合戦。シェルパ(大人)も子どもも、混ざってびしょ濡れになりながら遊ぶ。前のサークルタイムで「ぬれるのは嫌だ」と言っていたSちゃんには、当たらないようにみんな気をつけている。でもSちゃんは投げていい。なぜなら、それでいいよねってみんなで決めたから。

ヒロックには「どうしても制度」というルールがある。誰かが「どうしても!」って言えば、それを聞き入れてもらえる制度だ。Sちゃんは前のサークルタイムで「どうしてもぬれるのは嫌だ。でも、水風船合戦には参加したい」と主張した。その結果、みんなでルールを考えたのだった。

Kくんは、今日はぼーっとしたいらしい。何かあったのかもしれないな、とTくんは思う。入りたくなければ無理に入ることは無い。それがヒロックのルールだ。もちろん、途中から入ってきたっていい。

疲れたら、木陰でお茶を飲みながら休憩。Tくんは、Kくんの隣に行って話しかけてみた。聞いてみると、昨日夜までサッカーの練習があって、疲れていたらしい。Tくんはほっと胸をなで下ろす。

そして、水風船合戦再開。Kくんも自然に加わって遊んでいた。

Yちゃんは、みんなでの遊びに加わらないことが多い。一人で色々なことをゆっくり考えることが好きだからだ。みんなの遊ぶ姿を見ているのも楽しいから、ちょっと離れたところで座って見ている。誰も文句言ってこないし、たまに手を振ってくれたりするのが心地いい。この時間が一番、いろんなアイデアを思いつく。だから、Yちゃんにとって大好きな時間だ。

途中、ちょっとしたもめ事が起こった。Kくんの投げた水風船が、Sちゃんに当たってしまったのだ。お気に入りの服がびしょびしょになって、泣いているSちゃん。Kくんもびっくりして、気が動転している。「わざとじゃないし!っていうか、ぬれちゃいやなのに水風船合戦なんて、やっぱり無理だよ!」と、言葉が口をついて出る。

間に入ったのはTくん。「みんなで座って話をしよう」Yちゃんも含め、みんなで輪になって芝生の上に座った。シェルパも輪に入るが、口は挟まない。「Sちゃんには水風船を当てないっていうのは、こないだのサークルタイムでみんなで決めたよね?」みんなうなづく。

「でも、Kくんはわざとぶつけたんじゃない。そうだよね?」そう聞かれて、Kくんはうなづきながら、自然とあふれ出してきた涙の理由に戸惑い、隠すように下を向く。

Tくんは続けた。「どんなに気をつけていても、やっぱり水風船合戦をしてたら当たっちゃうことがある。どうすればいいと思う?」みんなに問いかける。それぞれの子が、近くの子と案を出し合う。Sちゃんが、そこでぽつぽつと、自分の気持ちを話し始めた。「…わたしがぬれたくない理由は、お気に入りの服がぬれちゃうから。でも、水風船合戦してたら、わざとじゃなくても当たっちゃうことがわかった。だから、今度からはぬれてもいい服をもってきて、着替えるようにする」と言った。みんなから、自然と笑顔や拍手が漏れ出る。Kくんもここで初めて「Sちゃん、ごめんね」と謝った。

早速、新しく決まったルールで遊び始める子どもたち。さっきまでのいざこざが無かったかのように、はじける笑顔がどこまでも広がっていく。離れた場所で微笑ましく見つめていたYちゃんにふと、問いが立ち現れた。「水風船のゴムって、何から出来ているんだろう?…そうだ!今度「どうしても」を使って、みんなでこの時間にゴム工場に行かないか提案してみよう」

いいアイデアを思いつくのは、いつも決まってこの時間だ。

水風船